ドラゴンボール

 

「ドラゴンボールが7つ集まったらどうする?」

 

病室に浮かんだ、僕の突然の問いかけに、君は戸惑いながら返答をした。

「ドラゴンボールって、今ニュースで話題の?」

「そう、宇宙のある星に存在する、7つ集めると願いが何でも叶う球のこと」

確かに知ってるけど、という風な苦笑いを君は少しだけ浮かべ、

「悩むなぁ」と答えた。

「病気が治れ、とは願わないの?」僕は率直に尋ねる。

僕だったらきっとそうする。

「人の生き死にをお願いするのは、なんか違うと思うからなぁ」

君のつぶやきが僕をすごく寂しい顔にさせたことに、君はすぐに気が付いて、

「でも、あなたとは少しでも長く、ずっと、一緒に居たいと思ってるよ」と付け加えた。

 

一億人に一人しかかからない不治の病。

君がかかった病気はそういう類の、ある意味現代科学の限界地点であった。

僕に出来る事は、神頼みだけ。あとは毎日のお見舞い。

日に日にやつれていく君に、僕はなるべく笑顔で、明るい話をした。

「沢山笑わせてくれれば、病気が治るかもしれない。あなたの腕の見せどころね」

そんな君の嘘に、すがりついて必死だった。

 

君は病人のくせに、懸命に明るく振る舞った。

「無理しなくていいよ」僕は何度もそう言ったけど、

「元気なフリでもしてなくちゃ、奇跡って起こらないと思うんだよね、私は」って、

謎の理論を掲げて僕を論破した。

「私その方法で、一回奇跡起こしてるし」なぜか自信満々だった。

 

だけど結局、神様は奇跡なんか起こしてくれなくて、

君は世界から居なくなった。

僕に宛てられた最期の手紙には、

「あなたに出会えたことが、私が起こした一番の奇跡です」と書いてあった。

 

僕らが出会ったのは、あるアニメの声優オーディション会場。

オーディションの役名は、「空元気のコジロー」。

そういえば確かに、あの時の君は元気なフリがうまかった。

僕は君のそんな姿に一目惚れをして、出会ったその日に交際を申し込んだ。

まるで世界一の幸運が目の前で光り輝いたような、そんな感覚だった。

 

今でも鮮明に思い出せる。

君の笑顔。明るい声。キレの良いダンス。楽しそうに話す姿。

今でもちゃんと覚えている。忘れるはずがない。

僕は、君に会いたい。

 

 

君が亡くなってから三年たったある日。

僕はある知らせを聞いて地球を飛び出した。

誰もが聞いて驚くような大冒険の末、

名も知らぬ惑星で、僕はとうとう7つの球を集め、

村の長老から聞いたパスワードのようなものを大声で叫んだ。

 

「タッカラプト ポッポルンガ プピロット パロ」

 

僕がその呪文を唱えると、七つの球が光り、

暗雲が立ち込め、そこから巨大な龍が出現した。

「願いは何だ?」遥か上空からその巨大な龍が僕に尋ねる。

僕は翻訳機に向かって、言葉を紡ぐ。

「病気で亡くなってしまった僕の婚約者が居るんです」

「その者を生き返らせるのか?」

「いや」

いつだったか君は言ったんだ。

「人は生まれ、そしていつか必ず死んでいく。それはすごく当り前のことなの。

どんな理由があっても、きっとそれをどうにかしちゃいけないと私は思う。

ねぇ、だから、

私がいつか居なくなっても、あなたはあなたの人生をちゃんと生きてね。

一生懸命、必死で、与えられた使命を、精一杯やり遂げてね。

素敵な人生を送って欲しい。

それだけが私の、

たった一つのお願いです」

 

でも。

 

それでも。

 

いつかまた会えたらいいなって、

君はあの日、笑ったんだ。

 

だから。

 

「生まれ変わったら、僕とその人が、また会えるようにしてくれませんか?」

「それは容易い事だ。しかし、記憶も姿形も生きる場所も、異なるものになるぞ」

「それでもかまいません」

そこから奇跡を起こすのは、今度は僕の番だ。

「承知した」龍はそう呟いて、姿を消した。

暗雲は晴れ、世界は光り輝いた。

 

これで本当に良かったのか、答え合わせは、また来世でね。

ありったけの空元気で、今度は僕が見つけさせてみせるよ。

僕らは、また出会える。

とりあえず、今はそれだけで、

とってもさ、ハッピーな気分になれるんだ。

 

 

ほんのちょっとだけ続く

 

 

ある日、地獄の門の前で、閻魔様が呟いた。

「お、あの願いの二人、2017年の地球で出会えたようだな」

 

 

おしまい

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中