ボタン

 

この世の中に平等なんてあると思う?

生まれてきた時から、すでに僕等は同質ではないのに。

僕等は同じになれると思う?

みんながそろって幸せになることは可能かな。

僕は無理だと思う。

なぜかって?

だって僕等は決して同じにはなれないのだから。

ずっとずっとそう思って生きてきたんだ。

 

 

今よりずっと子供の頃。

僕は一人で遊ぶのが好きだった。

空想の世界に逃げ込めば、そこはいつも自由で愉快だ。

うるさい親も先生もいないし、気を使う相手もいない。

勉強や嫌なことはしなくてもいいし、ふいの一言で誰かの気分を損ねることもない。

僕は、ここなら自由だ。

いつもその中で会う人がいた。

やさしい笑顔で僕と一緒に遊んでくれる。

二人して空も飛べる。

いつまでも一緒にいたかったよ。

僕のおじいちゃん。

 

昔、そのおじいちゃんが不思議な話をしてくれた。

姿の違う人々。

年も職業も考え方も全然違う。

ただ一つ同じことは、彼等がみな心から平和を望む者達だということ。

彼等の前にはボタンが一つ。

世界を破滅させることの出来るボタン。

彼等はそれを隠した。

隠したはずだった。

しかし次の日、世界は滅亡した。

おもしろくもなんともない話だ。

でも、今も覚えている。

 

おじいちゃんは何でだろうかと僕に尋ねた。

「誰かが押したの?」僕は聞いた。

「彼等は心から平和を願っていた。だけどその世界は本当はとても荒れていたんだ。食べ物も住む場所もほとんどなかった。押したのは人々の誰かだと私は思うよ。最後になって彼等は諦めてしまったんだ。」

 

僕もそんなボタンが欲しかった。

子供ながらに世の中にはウンザリしていたし、味方だっておじいちゃんしかいなかったから。

TVでやってる少年犯罪とか事件のニュースを見て、いつもおじいちゃんは悲しそうな顔をしていた。

この世界は腐ってる。

おじいちゃんも気付いていたんでしょ?

だから、僕にボタンの話をした。

 

おじいちゃんがね、死んじゃった時に僕はやっと気付いたんだよ。

あのボタンの話の答え。

おじいちゃんがいなくなって僕はとっても悲しかったよ。

不幸になった。

涙が拭いても拭いても出てきたし、何も食べる気にならなかった。

何で喋ってくれないのって横になってるおじいちゃんに何度も何度も話しかけた。

 

ねぇ、おじいちゃん。

僕はボタンを作ったんだ。

よく出来ていてね、一瞬で世界を滅ぼせるんだよ。

日本もアメリカも関係ない。

これを押せば、僕もすぐにおじいちゃんの所へ行けるんだ。

おじいちゃんだけに正解を教えてあげる。

ボタンを押した彼等はね、最後まで世界の平和を願っていたんだ。

誰も苦しまず傷つかない世界。

涙も怒りも悲しみもない世界。

僕と同じようにね、彼等はみんなが同じになれる方法にやっと気が付いたんだ。

 

おじいちゃんの答えは不正解。

いい?

よく見ていて。

世界が輝くから。

ここからはもう話も出来ないけど、もうわかったよね。

サヨナラ、おじいちゃん。

そして、こんにちは。

よく見ていてよ。

ボタンが押されたその瞬間。

男も女も年寄りも大人も子供も赤ちゃんも。

全部一緒になる。

すべてが混じる。

世界がキラキラ光ってさ。

やっと僕等は同じになれるんだよ。

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