「男は寡黙がいい」

それが私の口癖だった。

 

学生の頃、

友達同士でなんとなく作ったサークル。

加々見と出会ったのはそこだった。

ナヨナヨして、男らしくないヤツ。

それが第一印象。

 

でも、ギターを弾いたヤツは少しだけカッコよくて。

ある夏の日、多摩川沿いの河原。

ギターをジャジャンと鳴らしてヤツは言った。

「ヨウコさん、お喋りな男は嫌いでしょ。だから、一言だけ」

君は僕が守るから。

 

青臭いセリフだったけど、

なんだか妙に嬉しくて。

あれはよく晴れた空の下で、

たしか河原には石投げをしてる小学生達がいて、

私は「いつまで?」って聞いたんだ。

「ずっとに決まってるじゃん」

ヤツは驚いたようにそう言った。

 

ずっと、なんて幼すぎる言葉だけど、

信じたいって思ったから、私はそっと手を掴んだ。

ギターの音が止まって、無音。

「大切にしてよね」私は意地を張ってみせた。

「なるべくそうするよ」あいつは低い声で笑った。

 

そっか。

私は加々見の声が好きなんだって、

そういえば、この時初めて気付いたんだ。

 

 

ねぇ、加々見。

いくらお喋りな男が嫌いでも、

でもね、ずっと喋ってくれないのはもっと嫌だよ。

話したいことがいっぱいあるんだ。

 

私は夢だった写真家になった。

まぁ、全然見習いでまだまだ勉強中だけど。

あのオンボロの家も引っ越したよ。

狭くなったけど川が見える素敵な家に移った。

見せたいなぁ、すごくいい景色なんだ。

あんたの荷物のせいで引越し料金が倍になったけど、

捨てるなんてどうせ出来ないしね。

 

ねぇ、加々見。

あんたの大好きな川沿いの花火もここからだとよく見える。

一緒にビールでも飲んだら幸せだと思わない?

 

ね、加々見。

寂しいよ。

「君が僕を守るから」

そんな言葉がいつか宙に浮いた河原を歩いてみる。

あれから季節が巡って、

何度目かの夏。

もうその想いの欠片すらどこにもないけど、

今だって少しは信じてるんだからね。

 

いつか季節が巡るみたいに。

いつかまた会えるよね。

見えなくたって、遠く離れていたって、

守ってくれてるんだよね、ずっと。

ずっと。信じてるからね。

ちゃんと守ってよね。

 

空の上から、

「なるべくそうするよ」って、

いつかあなたの声が、もう一度だけでも、

聞こえたらいいな。

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中